たぬきのしっぽ3
『抱きしめた想い』


部長はカオルの肩に身体を寄せていた。
互いのぬくもりを感じるものの、どこかぎこちない。
カオルにとっては、本当にこれが現実なのかどうかわからなかった。

部長が側にいて、その身を自分に預けている。
改めてそう考えると妙に緊張した。
普段から一緒にいるのに、こんな感覚は初めてだった。
自然と息が荒くなる。

互いに目を合わせることもせず、沈黙を守ったまま時間だけが過ぎていた。

吐息の音の他に聞こえるものは、時計の針と、穏やかに吹く初夏の風の音。

何か、話さないと。話しても、いいんだから…

カオルはゴクリと唾を飲んだ。

「ぶ…ぶちょう…」

精一杯、声を出した。ちゃんと聞き取れる声だっただろうか?

「……」

部長は返事を返さなかった。
カオルは言葉を続けた。

「い、家、帰らなくても大丈夫か?あっ、明日は休みだし、うちは平気だけど…」

そう言いつつ、隣の部屋で寝ている両親のことを考えた。
…まぁ、大丈夫だろう。朝起きて部長がいることを知られても、きっと『あらぁ、たぬちゃん、来てたのね〜』の一言だと思う。

普段から寝てても起きてても大差ないような両親なのだ。
だから…

「と、泊まってくか…?」

言えた!部長がお泊り!

「……」

…まだ、部長の返事はない。

「……く〜…」

…く〜?

部長に目を向けた。

「…くか〜〜…」

…こ、このバカたぬき…

バカたぬきは、よほどいい夢を見ているのか、おバカな笑顔を浮かべて、寝ちゃってた。

徹夜続きだと聞いていたし、まあ無理もないことだとは思うが、デリカシーがない。
でも…

「…かわいいんだよなぁ」

もうちょっと部長の重みを感じていたい気もしたが、カオルは部長の身体をそっと支えると、膝下に手を回し、ゆっくりと抱き上げた。
今度は両腕に重みがかかる。
小柄なくせに85キロほどの体重だ。
童話か何かで、王子様がお姫様を抱くようには綺麗にまとまらない。
むしろ少しの衝撃でよろめいて倒れてしまいそうなほど、バランスが取りにくい。

「よっと…」

それでもなんとか、自分のベッドの上に寝かせることができた。

ぐーぐーとのんきないびきを立てる寝顔を、真横から見つめた。

ゆっくりと、視線を胸元に移す。
ベッドに寝かせた時にはだけた浴衣から、呼吸をする度に丸々としたお腹が顔を覗かせる。

「…う…」

理性が抑えきれなくなりそうだ。
まだ駄目だ。堪えろ。
そう考えても、息遣いの荒さは増すばかりだった。
ついには意識とは反対に、部長の胸元に手を伸ばしていた。

浴衣の内側に手を滑り込ませ、胸からお腹を舐め回すように触れた。
息遣いの荒さに比例するように、手の動きも大きく、激しくなる。
もはやカオルの理性では、その手を止めることができなかった。

やがて手は、お腹から下腹部、そして部長の股間へと伸びていった。下衣の上から、それの形を確かめる。
まだ大きさを変えてないためか、カオルの親指ほどの大きさしかない。
これまで、部長の性器を目にした機会は何度かあった。
海に遊びに行った時や温泉に行った時、着替える際などに部長は恥ずかしげもなくそれを露出させていた。
しかしカオルはまだ、絶頂時のそれは見たことがなかった。
その性器が今は自分の手の内にある。
どれほど大きく成長するのか、試してみたい衝動に駆られた。

…どうにでもなれ。

ゆっくりと手を、下衣の下に滑らせ、部長のトランクスに手を掛けた。
その時だった。

「んっ…」

ピクリと、部長が身をよじらせた。

「!」

気付かれたか。
思わず手を引っ込めていた。

「……く〜…」

「……ふぅ」

どうやら目が覚めたわけではないらしい。

取り出した手の平には、部長の柔らかい感触が残っている。

しばらく手の平を見つめた後、ぎゅっと握り締めた。

「…まだだ」

こんなやり方をしてはいけない。
その時が来れば、いずれは。

今は、横にこいつが寝ている。それが何よりの幸せじゃないか。

「……ル」

「ん?」

部長がむにゃむにゃと口を動かしていた。
聞き取り憎いため、思わず耳を近付けていた。

「カオル…」

寝言で、名前を呼ばれた。
なんだか胸が締まる気がした。

部長は、本人は否定しているが、根は人一倍純粋なんだと思う。
それゆえに、簡単に物事を受け入れ、流され、染まってしまう一面がカオルは不安だった。

俺が、守る。

カオルは部長の手の上にそっと自分の手の平を置いた。

唇をそっと重ね合い、カオルは再び部長の寝顔を見つめた。

「おやすみ…」

部屋の明かりを消し、ソファに横になった。

目が覚めて、部長がいなかったら。何もかも夢だったらどうしよう。

…それはそれでアリか。
こんなに幸せな夢なら、見れただけで大満足だ。

好きだ、部長。