十一章「支配」

「おいらは、父ちゃんじゃないっす…」

「わかっておる。君にしていることがただの八つ当たりだということもな」

「証城寺先生…」

「鳴樹が君の母親と交際していることを知った時は、心底彼女が憎かったよ…儂が最も愛した男と、最も憎んだ女。その間に生まれた君を前にして、儂はどうすればいい?」

証城寺の肩が震えている。
鳴樹を失って以来ずっと抱えて来た想いが、鼓を目の前にしたことで溢れ出していた。

鼓と出会うきっかけとなった新聞記事を、忌ま忌ましげに握り締めた。
もはや証城寺にとって、腹鼓の道を教えるという当初の目的は、口実でしかなくなっていた。

今はただ、腕の中の仔狸の全てを支配したい、そんな欲望が彼を突き動かしていた。

「どうしたらいいかって…」

証城寺に抱かれながら、苦しげに鼓が口を開いた。

「それを決めるのが自分なんじゃないっすか…?神様がいちいち『こうすればいい』とか教えちゃくれないっすよ」

「生意気な口を聞く…」

「んっ…!」

証城寺の唇が、乱暴に鼓の口を塞いだ。
鼓の両肩を押さえ、そのまま床に押し倒して身体の自由を奪う。

証城寺の舌が強引に鼓の唇をこじ開け、その舌に、歯に絡ませる。

「んっ…、うっ…!」

苦しげにもがく鼓の口から舌を抜き取ると、今度は作務衣の襟の隙間から首筋にしゃぶりついた。

「うぅっ…」

「…だいぶ、緊張しているようだな?」

そう言って、鼓の硬直した腕や足を揉みほぐす。

「こんなことが…したかったんすか…?」

「神職に携わる者のすることではないだろうな。」

「先生だって、道から外れたかったんじゃないっすか…」

「今更…」

証城寺は鼓の服から帯を解くと、晒け出した胸の上に手を置いた。
長い体毛に覆われた中から乳首を探り当てると、そこに口を付けた。

「はぅっ…!」

鼓の身体がビクンとのけ反る。

舌先で乳首を転がしつつ、その手を下腹部に滑らせる。
人差し指と中指の先が、鼓の硬く直立したそれにピタリと触れた。
鼓の胸に顔を埋めながら、その表情を確認する。

これから何をされるのだろうという不安、自分を支配しようとしている快感、証城寺に抵抗したくともできない恐怖。
それら全てが入り交じった感情が、まだ幼さの残る鼓の顔を歪ませていた。

「恐いか?」

顔を上げ、試すように聞いた。

「…」

鼓は、弱々しく頷いた。

「少しの経験もないというわけか…」

ニヤリと笑い、鼓の下衣をゆっくりとずり下ろした。
鼓の太く大きな性器は、鼓の理性とは裏腹にすでに硬く直立していた。

証城寺の指先がそれに触れただけで、ビクンと脈打つ。

「や、やだ…」

「嫌なら儂を振り払い、逃げるが良かろう?」

爛々と目を輝かせ、証城寺が告げた。

「儂から逃げることなどたやすいはず。何、逃げ出したところで追いはせんよ。帰りたければ帰れば良い…」

そう言われてなお、鼓は抵抗しない。
できるはずがないのだ。
無意識の内に鼓は、証城寺を求めてしまっている。

鼓が証城寺に対して僅かにでも同情を抱いた時点で、鼓は逃れる術を失っていたのだ。

獅子が小動物に食らいつくかのごとく、証城寺は鼓の太く大きな性器を自らの口に取り込んだ。

「あぅっ…!」

証城寺の舌先が、それを満遍なく舐めまわす。
同時に証城寺の手は乳首を責め続け、鼓の全身をとろけてしまいそうな快感が支配していた。

「んっ…!あっ…!!」

完全に証城寺に自由を奪われ、もはやまともな言葉を発することすらできなかった。
気を抜けば理性すら忘れてしまいそうだ。

証城寺の舌が鼓の亀頭の先の割れ目を執拗に責め、鼓の身体が苦痛と快感に大きくよじれる。

(健兄ぃっ…!)

助けを求めるように、健介のことを想った。
そうすることで自分の心を引き止めておかないと、証城寺の与えてくれるこの快感にどこまでも流されてしまいそうだった。

同時に、どうしようもない罪悪感に苛まれた。
健介に対しては自ら作っていたはずの壁が、証城寺に対してはこうもたやすく崩れ去るなんて。
こんな姿を健介に見られたら、どう思われるか。
それを想像すると恐くてたまらなかった。

そして不思議なことに、この状況に興奮している気持ちも存在していた。

鼓を責め続けている証城寺もまた、同じような恐れと興奮を感じていた。

鼓を連れ込んだ時点では、こんなことをするつもりなどなかった。
ただ腹鼓師としての道を説き示し、導くことのみを考えていたつもりだった。
だが目の前にいる鼓に対して抑え切れなかった衝動が、証城寺を突き動かしていた。

神主としても、腹鼓師としても許される行為ではない。
もし鼓がこのことを口外すれば、何百年も続いたこの神社も、幼い日より努力して昇り詰めた腹鼓師協会副理事長の座も、全て失うことになるだろう。

だが証城寺は知っていた。
その恐怖があるからこそ、この快楽はその味を増すのだと。

証城寺は、溢れ出る鼓の先走りを舐め取ると、そっと顔を上げた。

「ぅ…」

続いていた快感から遮断され、鼓が我に返ったように証城寺を見つめた。

その求め訴えるような視線に、証城寺は確信した。
今や鼓は完全に自分の手の内にいるということを。

「ふ…」

このまま逝かせてやっても良かったが、もう少し鼓の様々な反応を楽しみたかった。
焦らすように、鼓の性器の形を指でなぞる。

「うぅ…先生ぇ…」

「なんだ?」

「……」

鼓は、早くしてくれと懇願するように自らの性器に視線を落とした。
その意味を理解していながら、証城寺は冷たい笑みを浮かべた。

「…自分の口で言うが良い。どうしてほしい?」

「うぅ…」

「言わなければそれで良い。宿に送り届ける支度をしようか…」

「!」

慌てて上体を起こす。

咄嗟に、「帰るのはイヤだ」と身体が反応したことに、鼓は焦った。

だが遅かった。
鼓の口は、すでにその言葉を発していた。

「…ください…」

「聞こえん」

「……イかせて、くださいっす…」

「良かろう」

証城寺は、再び鼓の性器を口に含んだ。

「うっ…あっ…!」

先ほどよりも入念に、鼓の身体に快感を植え付けるかのように舌を動かす。
鼓の全身に流れる汗の匂いと、羞恥と快感に歪んだ表情が、証城寺に一層の興奮を与えていた。
証城寺のそれも、まるで年齢など関係ないように大きく形を変えていた。

「はぁっ…ぁっ…はぁっ…!」

鼓の呼吸が荒くなる。
鼓のそれが、口の中でみるみる硬くなっていくのがわかった。
そろそろだ。

「っ……イクっ…!」

次の瞬間、証城寺の口からも溢れるほどの白く濁った液体が放たれた。

射精のたびに脈打つ鼓の性器に合わせ、その大きなお腹が揺れる。
その腹を愛しげに撫でながら、鼓の精液を搾り取る。
8回…9回……

10回を数えたところで、鼓の射精は終わった。

「はぁ…はぁっ…」

大きく肩で息をしながらも、鼓の性器は未だ萎えずに天を向いている。

証城寺は口の中に溜まった精液をゴクリと飲み込むと、鼓の耳元に顔を近づけた。

「今一度聞こう。儂と共に暮らすつもりはないか…?」

「……」

「儂の元に居れば、より早く腹鼓師の高みに達することも可能だ」

「おいら…」

鼓が言葉を詰まらせた。
疲れ切った頭の中に、証城寺の言葉が響く。

鼓がずっと抱いていた価値観や信念が、大きく揺らいでいた。

その時、外から車のブレーキ音が飛び込んで来た。

思わずハッと顔を上げた。
誰が来たのかはわかっていた。

「犬が嗅ぎ付けたか」

証城寺は戸惑う鼓に衣服を差し出した。

「丁度良い。彼等の前で答えを出すが良かろう…」

鼓はただ無言で、服に袖を通した。


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