たぬきのしっぽ1
『部長、喰われる』


「なあ信楽」

「はい…」

イノシシ族の教師、猪狩に体育倉庫に呼ばれ、部長はしょんぼりと返事を返した。

「この点数はどういうことかわかるか?」

猪狩が部長の鼻先に、ピラリと一枚の用紙を突き出した。
先日行なわれた、数学の中間試験の解答用紙である。赤文字でデカデカと「18」と書かれている。

「赤点…です…」

猪狩はしっぽを下げる部長の首に腕を回し、顔を強引に近付けた。鋭い視線を部長にぶつける。

「おまえよぉ、一学期の中間と期末テスト、何点だっけ?」

「うぅ…」

猪狩先生の顔は間近で見るとすごく恐い。
大きな牙で噛み砕かれそうな気になる。
数学教師らしからぬ豪放さ。何かにつけて数学の成績が悪い部長を呼び出すのが、部長は苦手だった。
しかもいつもなら職員室に呼び付けるのに、今日はなぜだか人気のない体育倉庫だ。

「ほれ、覚えてるだろ。自分の口で言ってみろ。」

くしゃっ と頭をわしづかみにされた。

「…中間が15点で、期末が22点です…」

「だろう?」

ニヤリと、猪狩が笑った。ゾクリと寒気が走る。

「このままじゃな、おまえ留年。」

「えー!」

「俺は別におまえがいくら留年しても構わないが…」

「そんなぁ…」

部長が涙まじりの顔になる。

「だが、一つ救いを残してやらんこともない。」

「えっ…」

恐る恐る、猪狩を見上げる。

「追試、とか…?」

「そんなめんどくせぇもんじゃねえよ。今から一時間ほど、ちょっと俺の手伝いしてくれりゃいい。」

胡散臭そうに笑うと、部長の耳元に口を近付けた。

「できなかったら、留年決定だ。」

答えは、一つしかなかった。

「やります!」

その言葉を放った瞬間だった。布で、鼻先を押さえ付けられた。
嗅いだことのない臭いに、一瞬で部長の意識は失われそうになる。
まぶたが完全に落ちる直前、部長の唇に柔らかいものが触れるのを感じた。

「…猪狩…せんせ…」

部長の身体が、体育倉庫の床にゴロリと転がった。

「フッ…」

猪狩は不適に笑うと、意識を失った部長のネクタイを外した。
その目には狂気的な光が宿っている。
おもむろに唇を近付け、再び口を重ねる。
舌と舌を絡ませ、その味に酔う。歯の一本一本まで舐め終わると、唇を離した。

「うっ…」

部長の眉が震えた。
ゆっくりと、まだ重いまぶたを上げると猪狩の顔が飛び込んできた。
身体は麻痺したまま、ほとんど動かすことができない。

「なんだよ、これ…」

「フン」

猪狩は鼻で笑うと、部長のカッターシャツのボタンを外しはじめた。時折、服の
上から胸やお腹の感覚を確かめながら。

「信楽ぃ。前々からおまえにゃ目をつけてたんだよ。おまえが入学してきた頃からな。」
部長の上体を抱え起こすと、シャツの袖から腕を引っ張り出した。
荒い鼻息が顔にかかる。

「この腕だよ、腹だよ…ずっと食っちまいたいと思ってた…」

「や…やめろ…!」

胸を撫でていた猪狩の指先が、乳首を転がし始めた。

「んっ…」

「だがおまえはもう三年生になっちまった。一度も味わわないまま会えなくなるのはつらいんだよ…」

一瞬、狂気の目の中に子供のような純粋な光が見えたように感じた。

「先生…」

だが、猪狩の手が部長の腹からズボンにかけて動くにつれ、だんだんともとの狂気が目に戻っていった。

薬を嗅いだため動かない身体に、少しずつ感覚が戻ってきた。

猪狩は部長のズボンの上から、形を確かめるように手を動かした。

「うっ…」

「正直な身体してんじゃねえか」

大きく膨張したズボンをさする。
屈辱に、部長が歯を食い縛る。

「信楽、男とやるのは初めてか?」

「当たり前だ!!」

「ふうん…」

疑うように、部長の目を見つめた。手には盛り上がったズボンの先を大事そうに抱えているが。

「なんだよ…」

「熊井のヤツとはまだやってないんだな?」

「カオルと?」

意味がわからない、といった顔で見返した。

「気付いてねぇのかよ」

「……」

「あいつがおまえを見る目は、俺と同じだ」

「えっ…」

「おまえが二年のネコ娘にうつつを抜かしてるときも、アイツはずっとおまえを見てる」

「そんな…」

混乱で顔が歪む。もはや身体のことなどどうでも良かった。

「自分のこと以外には鈍いんだな」

猪狩は部長のズボンの前を開け、幼児の着替えを手伝うように足を持ち上げて脱がせた。
部長のトランクスは激しい先走りでぐっしょりと濡れている。
トランクスの上から弄ばれても、部長の視線は宙を彷徨ったままだ。

「…さてと、最後の仕上げだ」

猪狩は部長のトランクスをゆっくりとずり下げた。
大きく天を向いたそれが、解放された。

「思ったとおり元気なこった。いま、楽にしてやるからな」

根元をつかんだ猪狩の右手を、部長の左手が押さえ込んだ。
麻痺が残って力が入らないが、それでも精一杯強く。

「猪狩先生…おいら…」

「うん?」

「…ダメだ!おいら、まだ猪狩先生には渡せない!!」

強く猪狩の瞳を見つめた。

「…フン」

構わず、猪狩は部長のそれを口に含んだ。

「んぁっ…!」

なんだ、この感覚…

猪狩の口の中の暖かさと、舌に弄ばれて全身がとろけそうな感覚に襲われる。
時折触れる猪狩の歯の刺激に、部長の身体は大きく仰け反る。

不意に口を離し、耳元で囁かれた。

「気持ちいいだろ?熊井にしてもらいたかったか?それともあのネコ娘か?」

「うぅ…」

「おまえは俺のものになるんだよ」

「いやだ!!」

「うるせえ!」

再び、口に含んだ。
さっきよりも動きが激しい。

「はぁっ…!ぅぁ…!」

吸い上げるように唇を動かされた。

出せよ…出しちまえよ…
そうすれば完全に、おまえの身体を俺が支配したことになる…

猪狩の目には必死なまでの煌めきがあった。

グチュグチュと、体育倉庫に似付かわしくない音が響く。

おいらは自分のことしか考えてなくて…
ミナちゃんの気持ちもカオルの気持ちも、猪狩先生の気持ちもわかってなかった…
でも…

「!!」

部長のそれに、一際強い刺激が流れ込んだ。

イッたか!

猪狩は勝ち誇ったような笑みを浮かべた。
だが…

「…うっ…くっ…!!」

「どうした…なぜ出ない!」

たしかに部長の身体は何度も大きく脈打っていた。だが、放たれるべき白濁色の
液体はまったく出なかった。

「ハァ…ハァ…」

脈打つそれを強引に押さえ込み、部長は肩で息をした。

「…我慢したのか」

「ここで出したら…おいら二度とカオルに顔向けできないと思った…」

「…信楽」

猪狩の目は、先程の子供のような目に戻っていた。

「好きだ、信楽」

「……」

部長は辛そうに目を背けた。

「卒業しても、がんばれな。」

猪狩はハンカチを取り出すと、自分の唾液で汚れた部長のそれを拭いた。

何か大切なものを捨てるような、そんな物悲しい目を向けた猪狩は、倉庫を後にした。

痺れが抜けた後も、部長は寝転んだまま天を見ていた。

翌日…
猪狩が教師を辞めたという知らせを聞いた。
校長や他の教師たちが止めるのも聞かず、一方的に辞職したらしい。
部長はその知らせを、複雑な気持ちで聞いていた。

「んじゃ、この前の化学のテスト返すぞー。信楽、2点!」

イヌ族の先生がピシリと言い放った。

「えー!!」

ドッと笑い声が起きる。

「信楽は留年したくなかったらあとで先生のとこに来なさい。」

ニヤリと、狂気に満ちた目で微笑まれた。
なんだか、イヤな予感がした…