第二話「芽生え」(後編)


〜自分の部屋〜

いつの間にか、全ては元通りになっていた。薄暗い部屋の中で、パソコンだけが煌々と光っている

幸助「あ……」

幸助「……んなワケ、ないな」

お腹をポンポンと叩いてみせた。

幸助「変な夢」


〜次の日〜

いつものように通学したが、慎哉の姿は通学路にも、教室にもない

幸助「今日はシンヤ、休みなのかな……珍しい」

どうする?
・帰りに様子を見に行く
・普通に学園生活

幸助「見舞いにケーキでも買ってきゃ、喜ぶかな♪」

→・帰りに様子を見に行く


〜喫茶店「海の家」〜

正臣「いらっしゃ……ああ、こーすけくん」

幸助「どもーっす、今日はシンヤどうしちゃったんです?」

正臣「いやぁ、あいつ急に「学校行きたくない!」とか言っちゃってさぁ……父としても困り果ててるわけよw」

幸助「はぁ!?」

などと言いつつ、割と気にしていない感じだ

幸助「何言ってんですあのバカはw」

正臣「あはは。まぁ、若いうちには色々あるさ。少なくとも、ありゃサボりだねw」

幸助「ちょっとオレが渇を入れてきちゃいますっ!部屋にいるんでしょ?」

正臣「ああ、いいよ。喝なんて。親の僕ができないこと、こーすけくんにやられたら、おじさん困っちゃうしw」

そこで、ふっと優しく笑う

正臣「普通に遊んでおいで」

幸助「はーい、お邪魔します♪」

慎哉のオヤジさんはやはり太めだが、がっしりして、しかも大らかだ

幸助(いいなぁ……)

制服代わりに着ている白いワイシャツから、煙草の香りがする

正臣「ん? なんだい? おじさんの顔に何か付いてるかい?」

幸助「あ、いや……別に」


〜二階・慎哉の部屋の前〜

どうする?
・呼びかける
・ずかずか入る

幸助「こらシンヤ!!おまえサボるんだったらオレにも声かけろよ〜!!」

→・ずかずか入る

慎哉「(がつがつ)んー?(もりもり)なんだ、コースケか(ばくばく)」

幸助「うわっ、何!?どしたの!?」

慎哉は自分の回りに食べ物を山と積んでがつがつ食いながらゲームをやっている。もちろん昨日のdsmだ

幸助「うっわ、おまえ、それはオレの目から見ても不健康……」

慎哉「(むしゃむしゃ)んー(もりもり)」

幸助「なぁ」

慎哉「(もぐもぐ)?」

幸助「ちょっとゲームと食う手を休めて話を聞けよ」

慎哉「んー?」

幸助「なんで学校一人でサボったんだって話!!」

慎哉「だって、ゲーム面白くて(むしゃむしゃ)」

幸助「……おまえなぁ!!」

幸助はパソコンのコンセントを抜き、強制的に電源を落とした

慎哉「な、何すんだよ!」

慎哉は幸助に、いきなり掴みかかった

幸助「うわっ!!そりゃこっちのセリフだ!!」

慎哉「この、このぉっ!!」

幸助「がっ…!!」

慎哉の視線がおかしい。ギラギラとして、まるで憎い相手でも見るかのように掴みかかって、いや襲い掛かってくる

慎哉「俺の邪魔するな!!」

幸助「シンヤ……!!」

慎哉「でてけ!」

幸助「シンヤ!!!」(強引に慎哉を押し倒し、腹を揉んだ)

慎哉「がっ!? ぐううっ!!」

幸助「やり返せよ!!いつもみたいに!!」

それでも、慎哉の凶暴な視線は収まらない。むしろ、さらに憎しみが増している

慎哉「お前、邪魔だ!」

幸助「うわっ!!」

幸助は慎哉に、ものすごい勢いで吹き飛ばされた。

幸助「……シンヤぁ……」

幸助は壁に打ち付けた肩を押さえながら、慎哉の暗く淀んだ瞳を見つめた

どうする?
・殴る
・願う

→願う

何を願う?

幸助「しんや……オレの腹でも何でもいくらでも揉んでいいから、ちゃんとオレの目を見てくれよ……オレ、何か悪いことしたか……?」

〜ぐるるるる〜

幸助の体の内側から、響く音

幸助「うっ……」

〜ぐるぐる〜

幸助「『おまえ』か……?」

〜ぐるぐ〜

幸助「やっぱ、そうなんだな」

慎哉は焦点の定まらない視線でこちらを凝視し、身構えた

幸助「シンヤ!?」

〜ぐるるるる〜

幸助「……ゆめおいびと?」

その言葉に、一瞬慎哉がたじろぐ。同時に、腹の虫の音が、何かを伝えるように鳴る

幸助「オレ、シンヤを助けたい。こんなのシンヤじゃない!」

〜それが、こうすけのねがい?〜

幸助「ああ」

〜なら、たたいて〜

幸助「叩く?」

〜ぼくを〜

幸助「でも、そんなことしたって……」

〜きみはねがった。ぼくはかなえる。そのけいやくのあかしに〜

〜さぁ〜


幸助「……頼むっ……!」

大きく手を振り上げ、一気に降ろした
そうすると、自分の腹とは思えないほどの、力強い音が辺りに響いた
同時に、何かがこの狭い部屋の中から吹き飛ばされ、粉々になっていくのを感じた

幸助「な、なんだ!?」

〜これできみは、もうもどれない〜

幸助「どういうことだ!?」

〜きみは「ゆめかり」になったんだ〜

幸助「ゆめ、かり……?」

〜きみのいっしょうは、ぼくにささげられた〜

幸助「……あの時のことか?」

〜そして、ぼくのしあわせは、きみのしあわせ〜

〜でも、きみはもう、じぶんのためにはこうふくをえることはできない〜

〜ぼくという「むげんのこうふく」に「ささげられしもの」〜


幸助「……!」

〜ゆめかりは、ささげられしものがそのなをつぐ〜

〜きみからの「たいか」こんどこそほんとうにうけとった〜

〜ぼくはきみとなり、きみのせいは、ゆめかりにささげられた〜

幸助「オレ……オレじゃなくなっちゃうのか?」

〜こうすけ〜

〜ふくすけとのやくそくは、まもれなかったけど〜

〜きみは、ぼくがまもる〜

〜きみがせめて〜

〜ゆめかりとして、のぞめるだけのしあわせを〜

〜うけとれるくらいに〜


声は、そのまま聞こえなくなった

幸助「望めるだけの幸せとか……そんなのわかんないって。オレはただ……今は、シンヤが笑ってくれりゃ、いいや」

正臣「おい、二人とも今、凄い音が……」

正臣が絶句した部屋の惨状は、かなりのものだった
まるで局地的な地震でもあったように
いかし、その被害はまるで幸助と慎哉を避けるように遠巻きになっているだけだった

幸助「……オレ……」

正臣「まったく、何やってるんだ二人とも。プロレスごっこもいいけど、もう少し静かに遊ぶようにw」

幸助「ちが、これはっ」

正臣「おい、バカムスコ。起きろ、起きろ」

慎哉「ん、ん〜、あ、あれ?」

幸助「シンヤ?」

慎哉「こーすけぇ? どったの? 変な顔して」

幸助「おまえ……何も覚えてないの!?」

慎哉「は? いや、つーか、なにこれ!?」

正臣「おまえなあ、気絶するほど遊ぶなよな」

正臣「こーすけくんも、もうちょっと加減してくれよ。見かけよりもこいつ、よわっちいから」

慎哉「うっせぇな!」

幸助「シンヤ、ほんとに、シンヤ?」

慎哉「何だよさっきから。お前のほうこそ頭でも打ったんじゃぇの?」

幸助「しん……しんやあぁぁっ!」

幸助はシンヤに飛びつき、胸に顔を押し付け、泣いた。

慎哉「お、おい……こ、こーすけ?」

幸助「オレ、オレ……」

その様子を見て、正臣は肩をすくめて去っていく

慎哉「……ったく、あいかわらず泣き虫だな、コーは」

慎哉は、そのままぎゅっと抱きしめてくれる

幸助「うっ……わぁあぁぁっ……!!」

まるで線が切れたように、子供のように泣いた。
慎哉の暖かさを感じながら、幸助はその日、久しぶりに慎哉の部屋に泊まった



〜次の日〜

慎哉「おはよ。コースケ」

幸助「ん、おはよ〜……」

慎哉はすでに着替えていて、すでに学校に行く準備を始めている

慎哉「それにしてもお前、あいかわらずいびきうるせぇのなw」

幸助「む、おまえの寝返りよりゃマシだぃw」

慎哉「なに言ってんだか。だいたい、俺の体の毛布なんて、世界一上等なもん使ったんだ。後でちゃんと返せよw」

幸助「へいへい♪今日はたこ焼きか?ホットドッグか?」

慎哉「そうだなー、アップルパイなんていいな♪」

幸助「りょーかいりょーかい!」

正臣『ふたりとも、朝ごはんできたよ〜』

幸助「わっは♪」

慎哉「ほーい」

二人は押し合いへしあいしながら、階段を降りていく

〜よかったね〜

幸助「……ん。」

慎哉「何か言ったか?」

幸助「……別に♪」

そして、二人は朝ごはんを平らげるために食堂へと向かうのだった


〜???〜

朝の光を浴びながら、少し小高い丘に立って、誰かが町並みを眺めている

???「やっぱり、無理な願いだったか」

大柄な狸族の男は、寂しそうに笑う

???「結局、お前には親らしいことは何もしてやれなかったな」

自嘲すると、彼は町に背を向ける。

???「それでも、俺にだって、まだやれることはあるさ。お前たちのためにな」

〜おしまい〜


→第三話「choice」

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