第二話「芽生え」(中編)


〜ドーナツ屋〜

慎哉「ど、どうしたんだよ」

幸助「シンヤは見覚えなかった?あの人」

慎哉「ええ? いや、あんな猫人、見たことも……」

慎哉「あ、あれ? あ、まさか……」

幸助「こんなとこにいるハズないよ……」

慎哉「でも、さっき言ってたよな『コースケ』って」

幸助「はぁ……」

宮川「おい、コースケ」

幸助「できたら一生会いたくない奴だよ……」

いきなり後ろに立っている、さっきの大男

幸助「ってぬぉわっ!!!」

宮川「なんだよ、いきなり大声出して」

幸助「みやがわせんぱい…!?」

慎哉「や、やっぱり……宮川せんぱい、なんすか?」

宮川「おう〜」(ぼむん、と腹を叩く)

幸助「は…はにゃ……なんだ……」

宮川「なんだ、誰かと勘違いしたのか?」

幸助「母ちゃんが朝っぱらから変なこと言うから……(ぼそっ)」

慎哉「っていうより、先輩……ですよね?」

宮川「ああ、なんだ。やっぱりそういう反応になるかぁ」

幸助「なんでそんな体型になってんすか!!もう!!!」

宮川「な、なんだよぉ〜、そんなに怒ることないじゃんかぁ」

幸助「おかげでオレは……」

宮川はもじもじとして縮こまっている。以前のきりっとしたイメージはどこにもない

慎哉「おい! コースケ!」

(ぼすっ、と頭を叩く)

幸助「う」

慎哉「落ち着いたか?」

幸助「悪ぃ……それよか先輩っ」

宮川「な、なんだよぅ」

幸助「ネトゲで引きこもってるって話は本当なんです?」

宮川「引きこもってる、ってかなぁ。こうして出てきてるじゃん」

幸助「じゃなくって、先輩の好きな海は!?山は!?太陽は!?」

宮川「んー? 今は、なんつーか、ティル・ナ・ノグの太陽と、宅配ピザが好きだぞw」

と言って、デヘヘと笑う。

幸助「てぃ…てぃるな……?宅配ぴざ……!?」

慎哉「……せ、先輩はここに何しに?」

宮川「あー、ほら、この半額チケットでドーナツ買いに来たw」

幸助「シンヤ、行こう……」

慎哉「う、うん」

幸助「オレの憧れた先輩は死んだ……」

慎哉「いきなり凄いこと言ってんな、お前」

幸助「こんなシンヤみたいな腹した奴が先輩なんて、何かの間違いに決まってるでしょ〜!!?」

慎哉「うはっ!? ばか、やめっ、きゃぁ〜」

〜ぐうう、きゅるるる〜

幸助「……うっ……」

慎哉「何、腹減ったの?」

幸助「何かコイツ、オレのトコに戻ってきてから一段と食欲旺盛になったみたい♪」

幸助は腹をなでてみせた

慎哉「そうか〜(なでなで)」

幸助「きゅ〜ん♪」

幸助「って何言わすんじゃい」(べしっ)

しかし、幸助はなにかおかしいと感じていた。
ただ、腹が減って鳴ったようには、どうしても感じられない、そんな気がしていた

慎哉「ほら、おごってやるからマックにでもいこーぜ」

幸助「ん……ああ、うん」

釈然としない様子で、幸助は慎哉の後を追いかけた


〜その日の晩〜

どうする?
・慎哉にパソコンを借りて帰宅
・何もせずに帰宅

幸助「そうだシンヤ、さっき言ってたアレを」

→・慎哉にパソコンを借りて帰宅


そして家に帰ってきた幸助の荷物に、春奈が首を傾げた

春奈「おかえりー、ってなにその大きな箱、ダイエット器具?」

幸助「いや、パソコン〜。シンヤに借りてきた」

春奈「パソコン? 大丈夫なの? 壊したりしない?」

幸助「母ちゃんと一緒にしないでよっ!」

春奈「あはは。さ、ご飯食べちゃいなさい」

幸助「うわ、クリームシチュー♪」

春奈「そうそう。腕によりをかけて作ったのよ」

幸助「いっただっきま〜す♪」

その、幸せな食卓が終わって、自室に帰った幸助は、なんとかパソコンを繋いだ

幸助「ふぃ〜、案外簡単なもんだなぁ」

〜ぐるぐるぐる〜

幸助「うぇ……!?」

(叱るように腹を叩く)

幸助「さっき食べたばかりでしょーが。太らされる身にもなってくれよっ」

しかし、なんだか唸るような腹の虫はおさまらない。しかも、確かにお腹は一杯で、別に食べたいという気持ちにはなっていない

幸助「……まぁいいや、鳴ってるだけなら害はないだろ」

そして、パソコンがネットに繋がる。しかし、腹の虫は治まるどころか一層大きく響いてくるような気がする
そして、例のネットゲームをダウンロードできるサイトにたどり着いた

幸助「う〜〜〜……ばぁちゃん、こういう時はどうすりゃ治まるんだ?」(思わず頭を抱えた)

幸助「ま、いいや。ポチッとな」

ダウンロードのボタンをクリックした。

そうすると、自動的にダウンロードがされた途端、なにか背筋がぞくっとするような気配が辺りに充満した

幸助「!? そろそろ冷えてきたかな……」

そうすると、目の前のパソコン画面に、金色に輝いたリンゴが一個浮かんで見えた

幸助「んぉ」

パソコンに映し出されたとは思えないほどのリアリティがある。金色に見えたのは光の加減と、もともとのリンゴが黄味がかった品種だったからだろう
それはよく熟していて、つややかで、甘い香を放っていた

幸助「すっげぇー、うまそ……」

思わず画面に手を伸ばした
幸助の手が画面に伸びた途端、その金色の果実はスポッと手に納まった

幸助「へ……」

そして、みずみずしい手ごたえと、ずっしりと重たい感触を伝えている

〜ぎゅるる、ぐぐぐぐぐ〜

幸助「え、は?お?りんご??」

美味そうに熟したリンゴは「早く食べて」とせかすように一層におい立つ
すでに、その魅力は幸助の頭一杯に広がっていた

幸助「……美味そう」

どうする?
・気力を振り絞って耐える
・だめ、我慢できない、たべる

幸助「これ食えば、おまえの機嫌も治まるかな?」

幸助は鳴り続ける腹をじっと見つめ、リンゴを口の前に持ってきた

→・だめ、我慢できない、たべる

幸助「がぶっ」

ずきん!!
と、すさまじい腹痛が襲い掛かってきた

幸助「ぐっ!!?」

思わず食べかけたリンゴを取り落とす

幸助「いてて……なんだよも〜!!」

すると、見ている間にリンゴは姿を消し、寒気も消えた
腹の虫はすっかりおさまって、腹痛もない

幸助「あれ……?」

思わず、パソコンの画面を確認した。

そこには何の変哲もない、ゲームのチュートリアルがうつっているだけで、リンゴなどどこにもない

幸助「何だったんだ?今の……」


〜???〜

???「……こうすけ」

???「こうすけ……」

幸助「! この声、また!?」

辺りはまた、広い空間が広がっている

???「こうすけ……ぼくは、ここだよ」

幸助「また夢でも見てんのかオレ……」

声のするほうに行くと、あの影は大分小さくなっていた

幸助「やっぱおまえか……」

???「こうすけ……あぶなかったね」

幸助「あぶなかった?」

???「きみは『ゆめおいびと』にとらわれそうになったんだよ」

幸助「ゆめおいびと……?」

???「ぼくは、ほんとうは、あんなことしてはいけなかった」

???「でも、きみがこのせかいからかけることは、ぼくも、せかいものぞんでいないから」

???「ささやかなていこうですら、ぼくは「ぼく」ではいられなくなるから」

幸助「おまえ……」

???「だれかとよりそうことことが、ぼくにゆるされたこと」

???「こうすけ、ぼくは、ぼくでいるために「きみ」でいつづける」

幸助「!」

???「でも、こうすけ、きをつけて。ゆめおいびとは……」


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