第一話「腹の虫」(後編)


 〜隣町〜
 
慎哉「おそい……ぜっ……って、お前」
 
慎哉「ホントにコースケ?」
 
幸助「言うなっ、自分でもイヤだこんな体型」
 
慎哉「……痩せたかったんじゃ、なかったのかよ」
 
幸助「いいかシンヤ、オレはだな、母ちゃんのオムライスが食いたいのだ!!!」
 
慎哉「……ああ」
 
慎哉「おまえんちのオムライス、うまいもんな」
 
幸助「あのばあちゃんは?オレのオムライスを返せ」
 
慎哉「あのばあさん、この辺りでよく見かけるらしい。しらみつぶしに探すぞ」
 
幸助「よし、人気のないところから当たるぞっ」
 
慎哉「それと、俺も色々調べて分かったことがあるんだ」
 
幸助「おう?」
 
慎哉「お前、たぶんあのばぁさんにだまされたんだ」
 
幸助「だまされた?」
 
慎哉「あの後読んだんだよ。芥川の酒虫って小説」
 
幸助「うん」
 
慎哉「あるお金持ちのところに、変な男がやってきて、その金持ちの大酒のみを治してやるって言ったんだそうだ。
そして、その金持ちは腹の中から「酒虫」を抜かれた。そのあとどうなったと思う?」
 
幸助「えーっと、お酒が嫌いになった……?」
 
慎哉「それだけじゃない。その金持ちの家は急に没落して貧乏になり、その主人も寂しく死んんだそうだ」
 
幸助「そんな!?酒を飲まなくなっただけで?」
 
慎哉「もしかすると、酒虫もお前が抜かれた腹の虫も、一種の幸運を招く生き物なんじゃないかな。だから、その源を抜かれて……」
 
幸助「そんな……じゃあオレ、このままじゃ……」
 
慎哉「死ぬよりも先に、世界一不幸になるぞ」
 
幸助「そんなのやだよぉ!」
 
慎哉「分かってる! だから手分けして探すんだ!」
 
 どうする?

・一緒に探す
・別れて探す
 
 →・別れて探す
 
慎哉「よし! なんかあったら携帯に連絡入れろ!」
 
幸助「うん、絶対見つけ出すっ」


〜裏通り〜
 
 息を切らせながら走り回った幸助は、皮肉なことに今の自分の方がはるかに運動神経もすばやさも向上していることに気が付いた
 だから、まだ少しも疲れていない
 
幸助「こういうのは、悪くないんだけどなぁ」
 
 その時携帯が鳴った
 
幸助「もしもし!?」
 
慎哉「おい、見つけたぞ!」
 
幸助「どこ!?」
 
慎哉「うん、今……うわあっ!?」
 
幸助「シンヤ!?おい、シンヤ!!」
 
 返事はない。
 
 どうする?

・呼びかける
・探す
 
幸助「あっちの方か……」
 
 →・探す
 
 走っていくと、レンガ壁の前で呆然と立ち尽くす慎哉の隣に、あの老婆がいた
 彼女は幸助を見てニコリと笑う
 
占い師「おや、また逢ったね」
 
幸助「おまえ!!」
 
占い師「おまえとはご挨拶だね。年上のものに向かって」
 
幸助「うるさい!俺の腹の虫、今すぐ返せよぉ!!」
 
占い師「おかしなことを言うね。あんたはアレで困ってるんじゃなかったのかい?」
 
幸助「オムライスが……それどころか何も食えなくなるなんて聞いてない!!」
 
占い師「あんたは、望むものを手に入れるために対価を支払ったんだよ」
 
幸助「じゃあそんなのクーリングオフだ、とにかくオレ、太っててもいいからメシが食いたい!」
 
占い師「……勝手な物言いだね。しかし、失ったものを手に入れるのには同等の対価がいる」
 
幸助「またそれかよ」
 
占い師「クーリングオフ、なんて言葉はこの世界には存在しない。なぜなら、人は望んでそれを手に入れるからだよ。
中途半端な望みなら、望まない方がいい。アンタは本当に、痩せたかったのかい?」
 
幸助「う……」
 
占い師「腹の虫はなんなのか、もうアンタも知っているだろう?」
 
幸助「オレの、幸せ……」
 
占い師「この子はね、アンタの体の中にいて、アンタとその家族と、関わった人たち全てに、幸せを与える存在なんだよ。
だから、この子はこんなにも大きいのさ」

ツボがどこからとも無く取り出された。しかし、その大きさは尋常ではない
 
幸助「そのツボの中に、オレの腹の虫が?」
 
占い師「そうだよ。それにアンタが太ったのと、この子を養うことにはそれほど因果があるわけじゃない。でも、この子は「アンタの幸せ」をねがって、「アンタの望みをかなえていたから、結果としてアンタが太ったのさ。
アンタの幸せって、なんだい?」
 
幸助「食べること……母ちゃんのメシとか、シンヤと買い食いすることとか、シンヤのおやっさんちの料理とか……!美味いんだよ……全部……」
 
占い師「……この子もね、アンタのところが、一番居心地がよかったってさ」
 
幸助「ばぁちゃん、オレ、そいつを返してもらうのに、今度は何を払えばいい?」
 
占い師「……アンタの人生全てを。払えるかい?」
 
幸助「……そんなの、途方もなさすぎてわかんないよ。でも、例えオレがこのまま不幸になっても、オレの周りの人は幸せにしてほしい・・・オレがいなくなってもいいから、母ちゃんやシンヤたちまで不幸にしないで!」
 
占い師「分かった。それなら、そのツボの中をすっかり飲み干すんだ」
 
幸助「わかった……」
 
 ツボは、すでにカメと言っていいくらいの大きさだ。
 蓋もきっちりとしまっている。
 
幸助「重い……」
 
 オレの減った体重分以上だな。そんなことを考えつつ、蓋に指を引っ掛けて力を入れた。
 そうすると、蓋がすぽっと抜けて、中身がどどどっと口の中に注ぎ込まれる
 
幸助「んっ!!わっ!!ぐっ!!!」
 
 その、大きくて何か途方もない塊は食道を通り、腹全体に染み渡っていくようだ
 
幸助「は、腹がっ!?」
 
 そして、その途方もない量のそれを飲みつくしたとき、幸助の意識は真っ暗になってしまった


 〜???〜
 
慎哉「おい……コー……おき……」
 
幸助「ん〜……もう食べられないって……」
 
慎哉「コースケ!」
 
幸助「はい!!?」
 
慎哉「……よかったぁ、無事かぁ」
 
幸助「シンヤ……あれ?ばぁちゃんは……?」
 
慎哉「……いなくなってた。おれ、ばあさんに掴みかかろうとしたら、何にも分からなくなって……逃げられた、のか……」
 
幸助「う〜、頭いてぇ。何かあった気はすんだけどなぁ」
 
 ……っ
 
慎哉「?」
 
 ……っっ
 
幸助「え」
 
 ぐぎゅるるるっ
 
幸助「あ」
 
慎哉「ああっ!!」
 
幸助「は……腹へって、死にそう〜〜・・・・・・・」(と、ずっしりとシンヤにのしかかる)
 
慎哉「っておい、コースケ!……ま、またかあっ!!」
 
幸助「メシ……メシぃぃぃ……」


〜幸助の家〜
 
 慎哉に背負われて、なんとか二人は幸助の家についた

 どうする?

・飯を要求
・何か探しに行く
 
幸助「メシ!か〜ちゃん!!メシ〜!!!」
 
 →・飯を要求
 
春奈「ど、どうしたの急に!?」
 
幸助「いいから!オムライスでも何でもいいから!とにかくオレ、母ちゃんのメシが食いたいんだよ〜!!」
 
春奈はしばらくきょとんとしていたが、すぐに嬉しそうな顔になって、台所に向かう
 
春奈「分かった! もうアンタの腹がはじけるくらい、たっぷり食べさせてやるんだからね!」
 
幸助「うん!はじけてもいい!!メシ〜〜〜♪」
 
 そして、すぐにさまざまな料理が目の前に並べられる
 
幸助「い、いただきまぁ〜〜〜〜すっ!!!」
 
 それからしばらく、幸助は今まで食べられなかった分を取り戻すように食べるようになった


慎哉「(むしゃむむしゃ)」<パンを買い食い中
 
幸助「シンヤ〜!」
 
慎哉「おー」
 
幸助「って、何一人で食ってるワケ」
 
慎哉「ばか、コレは俺のおやつ……」
 
幸助「おれの分は〜?」
 
慎哉「はいはい、ここにあるよw」
 
幸助「お、わかってるじゃん、さすがは親友♪」(がぶっ)
 
慎哉「ば、っか、俺の手まで食うなー」
 
幸助「うはは〜♪今日も胃袋絶好調だぜ〜ぃ」


 〜そして……事件から一月後〜
 
 〜身体測定の日〜
 
慎哉「んー、次は体重っと……おい、コースケ、何やってんだ。早くしろよ」
 
幸助「オレはほら、一ヶ月前にかなり痩せたし……」
 
慎哉「やせたぁ?(ニヤリ)」
 
幸助「まだ体重が安定してなくてだな、量るにはベストな状態じゃないかと……」
 
慎哉「だったらなぜに、そんなにきっちり着込んでるんだよwほれ、早く着替えた着替えたw」
 
幸助「はうぁ〜〜!!や、やめてぇぇぇ!!」
 
 ぷるん……
 
慎哉「おおっ♪」
 
幸助「あう〜〜〜……」
 
慎哉「眼福眼福♪」
 
幸助「いいんだい、また痩せるから」
 
慎哉「果たしてそううまくいくかな?w」
 
慎哉も服を脱いで着替えているが、最近の幸助の食欲に引きずられてるのか、でかい太鼓腹になっている
 
幸助「おまえはどうなのよ、そのお腹っ」(ぺちぺち
 
慎哉「や、やめろって!」(ぼむん)
 
慎哉「だったら、体重測定で、どっちが痩せてるか勝負しようぜ!」
 
幸助「いいぜ、何か賭ける?」
 
慎哉「今日の昼飯とおやつのおごりw」
 
幸助「言ったなっ……」
 
慎哉「くくくwまずは俺からだな……」
 
幸助「デーブ!デーブ!!」
 
 〜体重95キロ35%〜
 
慎哉「うぐっ!!?」
 
幸助「うお、全盛期のオレ並じゃん♪」
 
慎哉「じゃあ、お前計れよ」
 
幸助「過酷なダイエットを経験したオレだ。これは勝ったな!」
 
幸助「てい」(ずしんっ!!
 
 〜体重99キロ 体脂肪率40%〜
 
幸助「え……」
 
慎哉「……ぷっ」
 
幸助「あの先生、機械壊れてません?」
 
慎哉「あはははは、なんだよ、確かに全盛期とは違うな!! ぎゃはは!」
 
幸助「な、何かの間違いだよ〜!」
 
先生「全然壊れてませんよ。ちゃんと新しいのを買ってきたんですから」
 
幸助「そんな馬鹿な!!」
 
慎哉「あはは、もうすぐお前も100越えだ〜w」
 
幸助「うわぁぁぁ、それだけはヤだぁぁぁ!!!」
 
慎哉「でもさ(小声で)」
 
幸助「ん?」
 
慎哉「お前の丸いお腹、俺、結構好きだぜw」
 
幸助「え……」
 
慎哉「ちゅーことで、今日はお前のおごり! やった〜w」
 
幸助「……ちょ!なんだよそれ!!シンヤぁ!!」
 
慎哉「賭けに勝ったのおれだもんねw」
 
幸助「う〜、でも……まぁ」
 
慎哉「さ、行こうぜ、コースケ!」
 
幸助「このぐらい丸くても、悪くはないか……」(ぼそっ
 
慎哉「なんか言ったか?」
 
幸助「なんでもなーい!さぁ何でもおごってやらぁ!!」
 
慎哉「おおう、コースケさん、やっぱり太っ腹!」
 
幸助「次はおごれよ!」
 
慎哉「つぎも俺が勝つ!」
 
幸助「次は太いほうが勝ちね♪」
 
慎哉「うはあっ!!?」
 
 そんなこんなで、幸助と慎哉の高校生活は、これからも続く
 
〜おしまい〜


→第二話「芽生え」

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