第一話「腹の虫」(中編)


〜レストラン〜
 
 昼下がり、人がごった返す空間にやってきたが、なんだか気分がおかしい
 
慎哉「どうした?」
 
幸助「いや……別に……」
 
 そして、席に着くと、二人はメニューを見始めた。さが、どうも幸助は、何にしたらいいか迷っていた
 
幸助「う……」
 
 どうする?

・なにも食べない
・何か注文する

幸助(今朝あれだけ食べたからなぁ……まだ早いかな……)「シンヤ、オレおごるから先頼んでいいよ」
 
 →・なにも食べない
 
慎哉「そうか? わりぃな」
 
 ということで、慎哉はいつもどおり大量に食べ始める。しかし、幸助の腹は空いてくるどころか、むかむかし始めていた
 
慎哉「お前も食う?」
 
幸助「い、いらない……」
 
慎哉「どうしたんだよ……まさか、さっきのあれ……」
 
幸助「んはは、そんなワケないじゃん!ちょっと今日は腹の具合が悪いみたい」
 
慎哉「(ほっ)そ、そうか、そうだよな。ははは」(がつがつ)
 
幸助「うぇ……」
 
 しかし、目の前でむしゃむしゃ食べている慎哉が、なんだか凄く気持の悪いものに見えて仕方がない気持ちを、幸助は抑えることが出来なくなっていた


〜その日の晩〜
 
春奈「ご飯できたわよ」
 
幸助「ああ、うん……」
 
春奈「どうしたの、元気ないわね」
 
幸助「いや……腹減ってなくて」
 
春奈「また? ダイエットするならちゃんと食べてにしなさい」
 
幸助「うん、わかってるって」(食卓に着く)
 
春奈「……ほんとに大丈夫? 顔色悪いわよ?」
 
今日は自分の好きなはずの揚げ物だが、匂いだけで拷問に近い
 
幸助「母ちゃん、ごめん、やっぱ今日は無理みたい・・・」
 
春奈「そうなの? もし調子が悪いようならお医者さんにね」
 
幸助「うん、ちょっと部屋で休むよ」
 
 しかし、そういいながらも、部屋にいると気分が落ち着いて、全く腹が減っていない自分に気が付いていた
 
幸助「おかしいなぁ……今日はワケわかんないぞ、オレ」


〜次の日〜
 
 どうする?

・朝ごはんを食べる
・食べない
 
幸助(さすがに昨日あんなことしちゃったし……今日は食べなきゃ)
 
 →・朝ごはんを食べる
 
目玉焼きやご飯が食卓に載っているが、なんだか白い湯気が顔に当たるだけで気分が悪くなってくる
 
 どうする?

・無理して食べる
・やっぱり無理!
 
幸助「いただき……ます」
 
 →・無理して食べる

 
 口の中に入れた瞬間、どうしようもなく不快な気分になる。必死に噛み砕いて飲み込むが、体中が不快感で一杯になったみたいだ
 
幸助「う、うえぇっ!」
 
春奈「ちょ、どうしたの!?」
 
慌てて駆け寄ってくる春奈が、惨状を見て青ざめている
 
幸助「ううっ!!」(思わず、机の上の料理を払い落としてしまう)
 
春奈「きゃあっ、何やってるの!」
 
幸助「オレ……どうしちゃったんだよぉ……!?」
 
春奈「とにかく、病院へ……」


〜病院〜
 
医者「……検査の結果では、幸助君の体には異常は見当たりません。もちろん、高度な検査をすれば話は違うかもしれませんが」
 
医者「幸助君、本当に、なにか思い当たる事は無いのかな?」
 
幸助「うん、別に変なもの食べたりした覚えもないし……」
 
医者「……心因性の疾病とも考えられるけど、そういえば、昨日の朝は何も食べていかなかったそうだね。あのときからもう食べ物が嫌いになった?」
 
幸助「いや、あの後友達の家で食わせてもらったご飯がすっごい美味くて。そこまではいつもと同じだったんだけど、隣町に行ってパスタ屋で気分が悪くなって」
 
春奈「あんた、そんなことやってたの!?」
 
幸助「あっ!!母ちゃんごめんっ、腹の虫が鳴り出すもんでつい…………腹の虫?」
 
医者「どうかしたかい?」
 
幸助「そういえば隣町で、変なばぁちゃんに声かけられたんです。妙なツボを持ってて、占い師みたいな格好の」
 
医者「それで?」

・一部始終を話す
・やっぱり止めておく
 
幸助「実は……」
 
 →・一部始終を話す

 
 二人とも、どうにも微妙な顔をしたまま、黙ってしまう
 
幸助「そんなの、オレの思い込みだよなぁ……」
 
医者「つぼの中には本当に何も無かった?」
 
幸助「うん、何も」
 
医者「君はこれから、しばらく病院にいてもらう。お母さん、あなたもです」
 
幸助「えぇーっ!?」
 
医者「いいかい。絶対安全と分かるまで、君たちは隔離だ。それから、その一緒にいった友人と、その友達のお父さんもね」


 〜それから数日〜
 
 新型のウィルスではないかと言う憶測で始まった騒動は、急速に終わりを告げた
 
 幸助に接触した他の人間には、同じ症例は出なかったからだ
 
 そして、幸助の食は、以前と比べてはるかに細くなっていた……


〜家〜
 
春奈「幸助、なにか食べたいもの、ある?」
 
幸助「なんにも……」
 
春奈「でも、少しは食べないと……」

と言いつつ、お粥を差し出した
 
幸助「わかってるんだけど……気持ち悪くて」
 
春奈「じゃあ、ここに置いておくから、食べたかったら、ね?」
 
幸助「あ、母ちゃん」
 
春奈「なに?」
 
幸助「オレ、オムライス食いたいよ……」
 
春奈「……でも、あんた……」
 
幸助「食いたいのに……」
 
 その姿に耐えられなくなって、春奈は背中を向けてしまう
 その体が小刻みに震えている
 
春奈「わかった……これから作ってくるから……ね」
 
 部屋に一人だけ残されて、幸助は呆然と座り込んでいる
 ちなみに、腹も減っていないし、体調自体はなんの問題もないのだ
 ただ、何を食べてもおいしくないし、見るのさえ嫌になる
 
幸助「オレ、一生何も食えないのかな……」
 
 そして、下からオムライスの香が届いてくる……
 
幸助「うっ……」
 
 無論、今の幸助には拷問と変わりがない
 
春奈「さ、作ってきたよ」
 
幸助「ん、ありがと」
 
春奈はお粥を片付けてそのまま下に降りていく
 
 どうする?

・食べる
・食べない
 
 →・食べない
 
幸助「やっぱダメだ……」
 
 目の前で、冷えて固まっていく料理、そしてゆっくり日は翳っていく
 
 ほとんど何も食べていない日々が続いているのに、腹の虫一つしない
 
そして、幸助はあることに気が付いていた
今や、自分の服のほとんどがぶかぶかになっている
 
幸助「そりゃ、これだけ何も食べてなきゃ痩せるよ……弱虫毛虫、腹の虫……か」
 
幸助はすっかり細くなったウエストをさすりつつ、あの日の隣町での出来事を振り返っていた。
 
幸助「あのばあちゃんに会ってからおかしくなっちゃったのは間違いないんだ……」
 
 藁にもすがる想いだったが、幸助にはもうそれ以外に思い当たることはない。
 
幸助「もう一度、ばぁちゃんに会いに行こう」
 
 その時、幸助の携帯が鳴り響いた
 
幸助「……?はい、もしもし」
 
慎哉「コースケ!!」
 
幸助「どしたの?」
 
慎哉「早く出て来い! あのババア見つけたんだ!」
 
幸助「なっ!!どこだ、すぐ行く!!」

幸助は血相を変えて家を飛び出した


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