第一話「腹の虫」(前編)

 神楽幸助は17歳、桜庭高校の二年生だ。
部活は特にやっていなくて、基本的に帰宅部。体型は、狸族の中でも結構太ってる方だ
今日も今日とて、幸助は学校が終わると、そのまま部活もせずに帰る生活をしているのだった
さて、この日も幸助はいつも通り、下校のチャイムと共に校舎を後にした

 
慎哉「おーい、コースケー」
 
幸助「んぁ?」
 
 声をかけてきたのは、同じクラスの相羽慎哉だ
 
慎哉「一緒に帰ろうぜw」
 
慎哉は犬族だが、「狸の間違いじゃねーの?」とか言われるくらいの太めだ
 
幸助「いいけど、また変な店連れてく気じゃないよね〜?」
 
慎哉「変な店って、どこがだよ」
 
幸助「駅前のドーナツ屋で、人目もはばからずドーナツ二十個ぱくついたりとか、ハンバーガー十個くださ〜い、とかさぁ」
 
慎哉「あ、あはは。そんなこといったって、コースケだって結構付き合うじゃんw」
 
幸助「だっていつもシンヤが無理矢理……」
 
 といった感じで、二人が道を歩いていると、
 
パン屋「いらっしゃーい、開店セールだーよー」
 
 と、パン屋らしい一件のお店がビラまきをしている
 
慎哉「どうする?」
 
幸助「アンパン……チョココロネ……」
 
慎哉「は?」
 
幸助「そんなの全然食いたくも何ともないぞぉぉぉぉ!!!」
 
慎哉「なんだよ、食いたいんじゃんw」
 
見ると、のぼりには「全品百円」と書いてある
 
幸助「安い……けど、けどぉ〜……オレこれ以上太ったら、家から追い出されちゃうよぉ」
 
 どうする?

・でも我慢できない、百円なら食いまくる
・やっぱりやめとこう
 
 →・でも我慢できない、百円なら食いまくる

幸助「一個だけ……一個だけだからな!」
 
慎哉「そーこなくっちゃ♪ じゃ、今日はおれがおごってやる」
 
幸助「わ〜い♪」
 
 そうすると、慎哉は山のようにパンの袋を抱えて帰ってくる
 
幸助「……って、ちょっとシンヤ、オレはアンパン一個で……」
 
慎哉「さ、食おうぜw」
 
幸助「……今日が最後だ、これで最後だかんなぁぁぁぁっ!!」
 
慎哉「はいはい♪」(とか言いつつ、コロッケパンをむしゃむしゃ)
 
幸助「てかシンヤ……おまえさぁ」
 
 にっこり笑って、幸助に袋一杯のパンが手渡される
 
幸助「うっ……」(ぱくっ)
幸助「おまえ」(もぐ)
幸助「よくオレに」(むしゃ)
幸助「おごって」(もぎゅ)
幸助「くれるけどっ……」
 
慎哉「ん?」
 
幸助「そんなにオレがダイエットしたい〜って言ってるのが気に食わないのかよ!」(もぐもぐもぐ)
 
慎哉「そういうわけじゃないよ。ただ、飯はみんなでおいしく食った方がいいじゃん♪」
 
幸助「そりゃそうだけどさぁ……」(そう言って、ポンと張り出したお腹をさすってみせる)
 
 慎哉はがつがつ食って、いかにも満足といったゲップをした。
 丸く突き出たお腹が学生服から飛び出しそうになっていた
 
慎哉「お、いいお腹だ。さっすが狸族w」
 
幸助「あのねぇ、狸だからって太ってるってわけじゃないんだけど」
 
慎哉「あはは。でも、確かに狸族でも細い人はいるよなぁ」
 
幸助「おまえだって、何だよその腹は〜」
 
慎哉「え、俺はその、なんていうか。あはは」
 
などと言いながら、二人はいつもどおり、家までの道を辿っていった


〜その日の晩〜
 幸助の家では、母親である春奈がせっせと夕食の支度をしていた。

 どうする?

・晩御飯はしっかり食べる
・食べ過ぎちゃったから、少なめに
 
 →・食べ過ぎちゃったから、少なめに
 
幸助「オレ、今日はメシ半分でいーや」
 
 ちなみに、幸助の好きな食べ物は?(笑)
 
 (オムライス)
 
春奈「あら、半分なんて、今日はせっかくあんたの好きなオムライスにしたのに」
 
 テーブルの上には、どーんとオムライスが乗っている
 
幸助「!!母ちゃんひどいよ〜!!」
 
春奈「なによ、せっかく好きなもの作ってあげたのにその言い草は。嫌ならもうオムライスなんて作んないわよ」
 
 どうする?

・鉄の意志で、半分
・残さず全部食べる
 
幸助「あうう〜〜〜……ごめんなさい、オレが悪かったです……」
 
 →・残さず全部食べる


 
 そして、自分の部屋に、幸助はよたよたと戻ってきた
 すでに、腹の中は買い食いしたパンと大盛りオムライスではちきれそうだ
 
幸助「はぁぁ、なんでオレっていつもこうなんだよぉ……」
 
 すでに、今まではいていたズボンもすっかりきつくなってしまっている。ベルトもだんだん締まるのがなくなっているのも、かなり危機感になっていた
 
幸助「う……お腹にベルトの跡がクッキリだ……やばいよコレ……」
 
 どうする?

・体重を量ってみる
・怖いので、もう寝る
 
幸助「怖いけど……ちょっと量ってみるかな……」(そう言って、のっそりと重い腰を上げた。)
 
 そうすると……
 
 (かちゃかちゃ、ちーん)
 
幸助「……はうぁぁぁっ!!!」
 
 〜体重96キロ 体脂肪率35%〜
 

幸助「俺の体の35%は脂肪でできてるのねぇぇぇぇっ!!!」(半年前はまだ30%切ってたのに……)
 
春奈「ちょっと、何騒いでるの!! もう夜なんだから静かにしなさい!」
 
幸助「母ちゃん、体重計壊れてるよコレ〜……」
 
春奈「ええー、何よ、あんたが乗って壊しちゃったんじゃないの?」
 
幸助「ダイエットする気マンマンなんだけど、オレ……」
 
春奈「ははん」(と、鼻で笑われてしまう)
 
春奈「そういって、長続きしたためしがないじゃない」
 
幸助「違うよ!気持ちは長続きしてんのに、やれパン屋だのオムライスだの、オレの周りに食べ物が溢れすぎなの!」
 
春奈「そう思うなら、帰宅部なんてやめて運動部に入ったら?」
 
幸助「オレ運動神経ないもん〜」
 
春奈「ばかねぇ。運動神経なんか下手にあったら、体なんて動かさないじゃない。あんたみたいなりっぱなお腹は、へたっぴぃくらいでちょうどこなれるようにできてんのよ」

春菜はぽん! と幸助のお腹をひっぱたいた
 
幸助「あう〜〜〜……」


〜ということで、次の日〜
 
今日もしっかり朝ご飯が用意されている
 
幸助「母ちゃん、毎日痩せろって言ってる割に容赦ないね……」
 
春奈「毎日三食食べる、ダイエットの基本よ」
 
 ちなみに、春奈は痩せてるわけではないけどがっしり体型で、運動神経もいい
 
 いわゆる肝っ玉母さん系だ
 
幸助「うう……これじゃイジメだよ〜〜」
 
春奈「……ふむ」
 
 ちょっと思案顔をする春奈は、おもむろに何かを思いついたらしく頷いた
 
春奈「あんた、ホントに痩せる気ある?」
 
幸助「え、えーっと……だって母ちゃんが痩せろって言うから……」
 
春奈「そうじゃなくて、あんたはどうなの?」
 
幸助「う……オレは……」
 
春奈「……ま、いいわ。さっさと食べちゃいなさい」
 
幸助「……いいや、いらない」
 
 ちょっと寂しそうにするが、結局その日の朝ごはんは食べられないままにされる


〜登校中〜
 
慎哉「おーい、こーうすけー」
 
幸助「ああ、おはよー……」
 
慎哉「……なんだぁ? 元気ねぇな」
 
幸助「シンヤぁ……」
 
慎哉「お、おい!?」
 
幸助「腹減った……」

幸助は目を回して、シンヤにのしかかるように倒れこんだ
 
慎哉「わ、ばか! こ、こんなところでー!!」


 〜駅前喫茶店「海の家」〜

ここは慎哉の父・正臣が経営している喫茶店である
 
慎哉「おい、そろそろ起きろよ」
 
幸助「ん……んぁ……?」
 
慎哉「ほら、お前の分。モーニング頼んどいたぞ」
 
幸助「モーニングって……学校は!?」
 
慎哉「お前があんなところでぶったおれっから、仕方なく家に運んだんだ」
 
幸助「……ごめん、オレ……」
 
慎哉「いいって。……さっさと食べちゃえよ」
 
 この喫茶店のモーニングは、普通の店のよりも量が多い。普通の定食くらいの量がある
 
幸助「……うん、いただきます……」(涙を潤ませ、クロワッサンをかじった。)
 
正臣「こーすけちゃん、大丈夫かい? 貧血でも起こしたの?」
 
幸助「あ、どもっす。ちょっと朝ごはん食べるの忘れてきちゃって……」(そう言いつつ、ゆで卵を放り込む。)
 
正臣「朝ごはんはちゃんと食べないとダメだよ。はい、これはサービス」
 
正臣は幸助の前にパンケーキを差し出した
 
幸助「はうぁ!!パンケ〜キ!!おやっさん最高です〜♪」
 
慎哉「オヤジ、俺のパンケーキ」

正臣「慎哉はもう食べたでしょ」
 
正臣「こーすけちゃん、甘いもの好きだからね。あ、メープル足りなかったらいってね」
 
幸助「はい〜!」
 
慎哉「ところで、ほんとにどうしたんだよ」
 
幸助「いや、母ちゃんにさ、ホントに痩せる気あんのか〜って聞かれちゃって」
 
慎哉「なに、また怒られたんだ」
 
幸助「うん、でも自分でもわかんなくなっちゃってさぁ」
 
慎哉「なんでだよ。お前いつも「俺は絶対やせてやるー!」ってしつこくいってんじゃん」
 
幸助「でも、いくらそう言っててもさ、実際美味いものを目の前に置いちゃうと……」

幸せそうにパンケーキをもぎゅっと口に入れた

幸助「こうなっちゃうわけよ」
 
慎哉「あはは。だったら、それでいいじゃん。うちの親なんて、むしろ子供は太ってるくらいがちょうどいいとか思ってるくらいだしw」
 
幸助「ん〜、そんなもんかねぇ……うち、母親だけだからなぁ」
 
慎哉「うちだって、オヤジだけだぜ」
 
慎哉「ところで、今日はどこ行くかw」
 
幸助「そうだなぁ……あっ、学校の近くに美味いファミレスあるんだけど」
 
慎哉「いいねぇ、でも学校ふけていく場所じゃねーと思うけど」
 
幸助「昨日おごってもらった分は返したいんだけどさ」
 
慎哉「んじゃ、隣町に美味いパスタ食わせてくれるとこがあるから、そこで」
 
幸助「おっけ〜♪」


〜隣町〜
 
慎哉「さて、パスタ屋はと」
 
幸助「カルボナ〜ラ〜♪ナポリタン〜♪」
 
?「おまちなされ」
 
慎哉「あん?」
 
幸助「ふぁ?」
 
呼び止めたのは、かなり歳のいったネコ人のおばあさん。どうやら占い師をしているらしい
 
占い師「そこの……狸のぼうや」
 
幸助「え、オレ?」
 
占い師「あんた、悩んでいる事があるようだね?」
 
幸助「いきなり何だよばあちゃん……まぁ、ないこともないけど」
 
占い師「おいしいものを食べるのがすきで、なかなか痩せられない。そうだろう?」
 
幸助「なんで知ってるの!?」
 
占い師「そんなことはどうでもいいさ。あんた、いいダイエット方があるんだけど、聞きたかないかい?」
 
幸助「え、なんか胡散臭いの……」
 
占い師「ああ、嫌ならいいよ。別に強制じゃないしねぇ」
 
慎哉「行こうぜ、コースケ」
 
幸助「あっ、待って!!」
 
慎哉「やめとけよ。こんなの絶対インチキだって」
 
幸助「でも、聞くだけ聞いてみたいかも」
 
占い師「話を聞くかい?」
 
幸助「う、うん」
 
占い師「芥川龍之介の『酒虫』って小説、知ってるかい?」
 
幸助「アクタガワ?」
 
占い師「最近の学生は勉強しないねぇ。まぁいいさ」
 
 そうすると、占い師は小さなツボを取り出してきた
 
占い師「もしアンタが、本当に自分の食い意地の張った性格とおさらばしたいなら、このツボの中に口を突っ込んで「弱虫毛虫腹の虫、みんなまとめて出てうせろ」と言ってごらん」
 
幸助「なんだそりゃ?」
 
占い師「嫌ならいいんだよ。別に」
 
慎哉「おい、もう行こうぜ」
 
幸助「……ばぁちゃん、貸して」
 
慎哉「お、おい!」
 
幸助「言えばいいんだよね?」
 
占い師「そうだよ。ただし」
 
幸助「ただし?」
 
占い師「痩せられることは確実だが、代わりに失うものもあるよ」
 
幸助「失うもの?」
 
占い師「さあ。願いをかなえるためには、同等の対価が必要になる。世の中の理さ」
 
幸助「…………」(ツボの中身を、怪訝そうに覗き込む)
 
 中は空っぽだ
 
占い師「何も入ってないよ。今からそこにアンタが入れるんだ」
 
幸助「はぁ!?」
 
占い師「いいから、やるのかい、やらないのかい?」
 
幸助「わかったよ、やればいいんでしょ、やれば!!えーっと、弱虫芋虫……」
 
占い師「ばかだねぇ、弱虫毛虫腹の虫、だよ」
 
幸助「ん。わかってるよ!弱虫毛虫腹の虫、みんなまとめて出てうせろっ!!」
 
 すると、なんだか、分厚い脂肪の付いた腹の底から、何か大きな塊のようなものがせりあがってくるのを感じた
 
幸助「うっ……!?」
 
その塊は食道を押し開いて、幸助が嗚咽する
 
幸助「う・・・うぁっ……!!!」
 
最後にその塊はツボの中にどさっと落ち、老婆がすばやく蓋を閉めた。
 
占い師「さ、コレでいい。どうだい、体が軽くなったろう」
 
幸助「げ、げほっ……何、今の……」
 
占い師「酒虫ならぬ食虫(しょくむし)さ」
 
幸助「しょくむし?」
 
占い師「いわゆる「腹の虫」ってやつだよ」
 
幸助「腹の虫……って、もしかして……じゃあ……」

幸助は慌てて、先ほどまで得体の知れないものを宿していたらしいお腹をさすった
 
占い師「ああ、大丈夫。別に寄生虫とか、そんなんじゃないさ」
 
占い師「もう平気のはずだよ。あんたはもう、食べ物を見ても意地汚く口に入れる事は無くなる」
 
幸助「まさかぁ」
 
 だんだん、体が軽くなっているような気がする。太鼓腹はそのままだが、妙に気分がいい
 
幸助「確かに、スッキリした気はするけど。あんなこと叫んだから思い込みか気のせいでしょ♪」
 
占い師「さて、いい物が入ったし、今日は店じまいだ。んじゃ、気をつけてお帰りよ」
 
老婆は心なしか膨れ上がったように見えるツボを抱いて、どこかへと去っていった
 
慎哉「お前、大丈夫か?」
 
幸助「変なばぁちゃんだったなぁ。オレは全然平気♪この通りお腹もぽんぽこりんっと!」
 
慎哉「ならいいけど。まぁ、パスタ食いに行こうぜ」
 
幸助「あ、そーだったね」

気を取り直し、二人は目当てのレストランへと向かった


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